カテゴリー: 再構築ストーリー リビルドライフFiction

過去の選択、挫折、挑戦。
そこから再び立ち上がる――
架空の物語として描く、もう一つの人生。

“再構築の物語” を綴ります。
誰も知らない、もしもの世界をここに。

  • 4.昼の戦場

    4.昼の戦場

    — 夢の入口は、いつも不自然だ —**

    次の日の朝、約束の時間より少し早くコンビニ前に着いた。

    冷たい風が吹き抜ける道端で、俺は手をポケットに突っ込みながら先輩を待った。

    だが、時間になっても誰も来ない。

    不安が胸をざわつかせた頃、ようやくスマホが震えた。

    着信は先輩だった。

    「悪い、寝坊した。先に会社向かっといて。タクシー拾えよ。」

    寝坊……?

    初出勤の日に?

    思わず言葉が出なかったが、続けざまに先輩はこう言った。

    「あ、運ちゃんに代われ。」

    半ば強引にスマホをタクシー運転手へ渡すと、

    先輩は何やら目的地を告げているらしかった。

    だが――

    肝心の俺には、どこへ行くのか知らされていない。

    「じゃあ乗ってくださいね。」

    運転手がそう言うと同時に、タクシーは滑り出した。

    行き先の分からない移動。

    胸の奥に、得体の知れないざわめきが広がる。

    ――これ、本当に大丈夫なんだろうか。

    だが戻る場所もない。

    タクシーの窓から流れる景色を眺めながら、

    俺は自分の選択を繰り返し噛みしめた。

    やがて車が停まり、運転手が振り返った。

    「着きましたよ。」

    見上げると、雑居ビルの古びた外壁がそびえていた。

    ここが……先輩の言っていた“100万稼げる会社”なのか。

    半信半疑のままビルの前で立ち尽くしていると、

    中からひとりの男が姿を現した。

    黒い服。

    サングラス。

    強面。

    まるで任侠映画から抜け出してきたような風貌なのに、

    なぜか笑顔だけは妙に柔らかかった。

    「お前が新人か?よく来たな。」

    その笑顔が逆に怖い。

    だが断る勇気もない。

    俺は頷き、男の後をついて階段を上がった。

    扉を開けた瞬間、

    視界に飛び込んできたのは――

    想像をはるかに超えた“異世界”だった。

    ガラの悪い兄ちゃん、

    金髪の若い子、

    スーツ姿の爽やか系、

    ギラついた目の中年。

    雑多。混沌。無秩序。

    何より驚いたのは、その人数。

    ざっと見ても50人以上はいる。

    みんな電話を片手に、

    ゲームしながら話したり、

    お菓子を食べながら笑ったり、

    机を蹴るようにアポイントを入れたり。

    オフィスというより、

    大規模なゲームセンターのようだった。

    ――ここが、会社?

    俺は思わず呼吸を忘れた。

    明らかに最年少。

    場違いにもほどがある。

    そんな俺に、先ほどの強面の男が

    一枚の紙束を渡してきた。

    「マニュアルだ。読んどけ。」

    ページをめくった瞬間、

    目を疑った。

    ――株?

    ――証券?

    ――委託会社?

    知らぬ間に、とんでもない世界に片足を突っ込んだらしい。

    仕組みはこうだ。

    電話でアポを取り、資料を送る。

    その後、株券が買われれば――

    金額の10%が、そのまま自分の給料。

    つまり、

    相手が1,000万円買えば100万円。

    3,000万円なら300万円。

    数字が、やけに軽い。

    そこへ、同年代に見える青年が話しかけてきた。

    「お前、新人?先月130万だったわ、俺。」

    唐突な自慢。

    だが、その目には嘘がなかった。

    130万……

    夜の世界で“100万”に絶望したばかりの俺には、

    その数字は現実味がなさすぎて逆に胸がざわついた。

    そのとき――

    パンッ!

    突然、室内に拍手が響き渡った。

    「おめでとう!!」

    「やったな!!」

    何事かと周囲を見回すと、

    人だかりの中心で誰かが立ち上がっている。

    その人に向けて、社内全員が笑顔で祝福を送っていた。

    誰かが俺の肩を軽く叩き、言った。

    「今、大台いったらしいぞ。」

    「大台?」

    「1000万。給料な。」

    呼吸が止まった。

    ――1000万円

    ――給料で?

    常識の外側にある世界が、

    目の前で現実として動いている。

    俺はそこでようやく悟った。

    ここは “稼げる人間” だけが残る世界。

    そして “稼げない人間” は、一瞬で消える世界なんだ。

    タクシーの不安も、

    強面の男の笑顔も、

    雑多な空気も、

    全部、この世界の“入り口”だった。

    俺の心臓は、

    恐怖と興奮で、ゆっくり熱を帯び始めた。

    ――ここで、生きていけるだろうか。

    いや、違う。

    ――ここで、生きるしかない。

    静かに、しかし確実に、

    俺の新しい物語が動き始めていた。

  • 3.— 百万という幻 —

    3.— 百万という幻 —

    「月に、百万円は稼げる」

    そう聞いて、

    俺はこの街に、深く足を踏み入れた。

    十七の俺にとって、

    百万円という数字は、

    現実というより“呪文”に近かった。

    それを口にした大人たちは、

    みんな余裕のある顔をしていたから。

    ——なら、ここにいれば、

    俺の人生も一気に変わる。

    その時は、本気でそう信じていた。

    だが、現実は、

    容赦のない速度で幻想を剥がしていった。

    罵声。

    絡み酒。

    意味のない怒鳴り声。

    時には、仲間が目の前で連れて行かれる。

    ほんの数分前まで、隣で笑っていたはずの人間が、

    そのまま“いない人”になる。

    食べる金がない夜もあった。

    帰る電車賃すらなく、

    朝まで駅の構内で時間を潰したことも一度や二度じゃない。

    借金までして現場に立つ自分を、

    どこか他人のように見下ろしているもう一人の自分が、

    いつも胸の奥にいた。

    ——俺、何してるんだろうな。

    答えは出ないまま、

    ただ夜が来て、また声を張る。

    言葉だけは、

    嫌というほど増えていった。

    パチンコ屋から出てきた人間が、

    換金所に向かうかどうかで“見込み”を判断する癖がついた。

    ほんの数秒の足取り、

    肩の力の抜け方、

    視線の泳ぎ方。

    それだけで、

    “今日は勝っているか”“もう余力はないか”が、

    少しずつ読めるようになっていく。

    言葉は、武器だった。

    「ギャバンゲリオンいかがですか」

    「少しだけでも」

    「雨ふってますからキャバ宿り、どうですか」

    「おっぱいもありますよ」

    相手に合わせて、

    声色も、言い回しも、呼吸の間も変えていく。

    必死だった。

    ただ、生き延びるために。

    それでも、結果が出るまでには、

    長い時間がかかった。

    気がつけば、

    ようやく月に三十万ほど。

    聞いていた“百万円”には、

    ほど遠い数字だったが、

    それでも、当時の俺にとっては初めて

    「自分の足で稼いだ」と言える金だった。

    だが、

    その達成感さえ、長くは続かなかった。

    そんな頃、

    一人の年上の先輩が現場にいた。

    その人は、

    声を張ることもなく、

    客を探すこともなく、

    ただ端の方で、ずっとスマホなどでゲームをしていた。

    最初は、

    「この人、何しに来てるんだ?」としか思わなかった。

    だが、不思議と、

    毎晩そこにいた。

    ある日は、

    パチンコ屋で代打ちを頼まれた。

    作業のように玉を打ち、

    終わると、あっさり謝礼を頂き解放された。

    その時、ふと尋ねた。

    「先輩、どうやって生活してるんですか?」

    何の気なしの問いだった。

    すると先輩は、

    ゲームの画面から目を離さずに、こう言った。

    「昼は会社員だよ」

    その言葉が、

    なぜか異様に重く響いた。

    昼は、会社員。

    夜は、ここ。

    「じゃあ、なんで夜ここに?」

    少し間を置いて、

    先輩は淡々と答えた。

    「彼女がキャバ嬢だからさ。一緒に帰るため」

    その言葉には、

    虚勢も、言い訳もなかった。

    ただ、

    生き方の違いだけが、そこにあった。

    俺はその先輩を、

    どこかで軽く見ていた。

    努力もせず、

    ただ時間を潰しているだけの人間だと。

    だが、ある日、

    その先輩が俺に声をかけてきた。

    「お前さ、営業センスあるんじゃない?」

    唐突だった。

    「俺たちの会社なら、

    本当に月に百万円なんて、余裕でいくぞ」

    冗談のようにも聞こえた。

    だが、その目は、

    どこまでも現実を見ている人間の目だった。

    その夜から、

    俺の中で、何かが静かに揺れ始めた。

    このまま、ここに居続けるのか。

    それとも、

    別の世界へ踏み出すのか。

    一週間、

    答えは出なかった。

    夜に立ち、

    朝に眠り、

    昼に目を覚ます。

    その繰り返しの中で、

    俺は何度も、自分に問い続けた。

    ——このままで、本当にいいのか。

    そして、

    17歳の誕生日を迎えた次の夜。

    俺は、先輩に言った。

    「……行きます。昼の仕事」

    先輩は、

    いつもの無表情のまま、

    少しだけ口角を上げた。

    「そうこなくちゃな」

    その一言で、

    俺の人生は、

    静かに、だが確実に、

    次の章へと進み始めた。

  • 2.烏森口、十七の夜

    2.烏森口、十七の夜

    十六の頃の俺は、

    新橋の駅前に立っていた。

    スーツ姿の大人たちが吐き出される改札の外、

    ネオンと排気ガスと酒の匂いが渦を巻く烏森口。

    「お兄さん、ちょっと寄っていきませんか」

    声はもう、半ば反射だった。

    誰に教わったわけでもない。

    生きるために覚えた“言葉”だった。

    誘うのは大人の世界。

    けれど、立っている俺はまだ制服も脱ぎきれない年齢だった。

    警察の影を気にしながら、

    同業の年上たちと目配せしながら、

    俺はただ“その夜”をやり過ごすために立っていた。

    昼間は学生、

    夜は街の部品。

    大人にもなりきれず、

    子供にも戻れない。

    宙ぶらりんの場所に、俺はいた。

    その日も、いつもと同じ平日だった。

    最初は、笑い声が溢れていた。

    仕事を終えたサラリーマンたちが、

    ネクタイを緩め、無防備な顔で街に流れ込む。

    誰かが酔って肩を抱き、

    誰かが愚痴をこぼし、

    誰かが今日の勝ちと負けを語る。

    だけど、終電の時間が近づくにつれ、

    街は少しずつ“夢”をしまい始める。

    一本、また一本と、

    人の流れが消えていく。

    シャッターの閉まる音が、

    やけに大きく響くようになった頃――

    烏森口は、まるで嘘のように静かになった。

    残っているのは、

    まだ帰れない人間と、

    もう帰る場所のない人間だけ。

    街灯に照らされたアスファルトだけが、

    白く、冷たく光っていた。

    その夜、俺は――

    十七歳になった。

    誰にも言わなかった。

    祝ってくれる相手も、特別な場所もなかった。

    スマホの画面に、

    日付が変わった表示が出るのを、

    ただぼんやりと眺めていた。

    「十七歳、か……」

    声に出してみたけれど、

    実感はまるでなかった。

    大人に一歩近づいたのか、

    それとも、ただ一歩遠ざかっただけなのか。

    誰も教えてくれない。

    街は静まり返り、

    風だけが、俺の足元をすり抜けていく。

    その瞬間、ふと、胸の奥に奇妙な感情が湧いた。

    ――俺は、どこへ向かっているんだろう。

    怖さとも、期待ともつかない、

    名前のつかない感情だった。

    十六の俺は、

    未来のことなど考えられなかった。

    今日をどう生き延びるか。

    それだけで、精一杯だった。

    けれど、

    この“十七に変わる夜”だけは、

    なぜか違っていた。

    誰もいない駅前で、

    俺は初めて、

    「このままじゃ、終われない」

    そう、小さく思った。

    理由なんてなかった。

    希望も、根拠もなかった。

    ただ、

    この暗い駅前で年を重ねていく自分だけは、

    なぜか許せなかった。

    やがて、始発前の白んだ空が、

    ビルの隙間から滲み始めた。

    夜と朝の境目。

    街が再び、

    “真面目な顔”に戻っていく時間。

    その薄い朝焼けの中で、

    俺はそっと、深く息を吸った。

    十七歳の最初の呼吸だった。

    この夜に、誰も拍手をくれなかった。

    ケーキも、プレゼントもなかった。

    けれど確かに――

    俺は、この街で、年を一つ重ねた。

    それが、

    俺の「物語の始まり」だった。

  • 1.未来から来た男**

    1.未来から来た男**

    未来から来た男**

    薄い光が差し込む部屋の片隅で、

    俺は未来から来たという男と向き合っていた。

    静かな空気の中、

    自分でも信じられない質問が口をつく。

    「なぁ……未来の俺はどうなってる?」

    未来人は少しだけ目を伏せ、

    やがてゆっくり首を振った。

    「それは言えない。

    言ってしまえば——未来が変わる。」

    淡々とした口調なのに、

    なぜか胸がざわついた。

    「どういう意味だ?」

    思わず問い返す。

    未来人はしばらく言葉を選ぶように沈黙し、

    静かに続けた。

    「もし“あなたは成功している”と言えば、

    あなたはこう思ってしまう。」

    ——“あぁ、俺は将来こうなるのか。

      なら、このままでもいい。”

    「努力は止まり、

    挑戦は弱まり、

    未来はそこで濁っていく。」

    言葉が胸の奥に落ちる。

    未来を教えることが、

    必ずしも救いではないという事実が見えてくる。

    未来人は続けた。

    「逆に“失敗している”と言えば、

    あなたは絶望し、

    本来の力を出せないまま終わってしまう。」

    その声にはわずかに、

    優しさのようなものがにじんでいた。

    「だから未来は教えられない。」

    未来人は微笑む。

    「あなたの未来は、あなた自身の手で描くものだから。」

    ゆっくりと立ち上がる未来人。

    その背中はどこか、

    今の俺よりもずっと強かった。

    「あなたの選択と行動でしか、

    未来のストーリーは動かない。

    台本は……まだ白紙なんだ。」

    最後にそう言い残し、

    未来から来た男は光の粒となって消えた。

    静寂だけが残った部屋で、

    俺は目を覚ました。

    未来は決まっていない。

    だからこそ、書ける。

    “これからの俺”という物語を。