未来から来た男**
薄い光が差し込む部屋の片隅で、
俺は未来から来たという男と向き合っていた。
静かな空気の中、
自分でも信じられない質問が口をつく。
「なぁ……未来の俺はどうなってる?」
未来人は少しだけ目を伏せ、
やがてゆっくり首を振った。
「それは言えない。
言ってしまえば——未来が変わる。」
淡々とした口調なのに、
なぜか胸がざわついた。
「どういう意味だ?」
思わず問い返す。
未来人はしばらく言葉を選ぶように沈黙し、
静かに続けた。
「もし“あなたは成功している”と言えば、
あなたはこう思ってしまう。」
——“あぁ、俺は将来こうなるのか。
なら、このままでもいい。”
「努力は止まり、
挑戦は弱まり、
未来はそこで濁っていく。」
言葉が胸の奥に落ちる。
未来を教えることが、
必ずしも救いではないという事実が見えてくる。
未来人は続けた。
「逆に“失敗している”と言えば、
あなたは絶望し、
本来の力を出せないまま終わってしまう。」
その声にはわずかに、
優しさのようなものがにじんでいた。
「だから未来は教えられない。」
未来人は微笑む。
「あなたの未来は、あなた自身の手で描くものだから。」
ゆっくりと立ち上がる未来人。
その背中はどこか、
今の俺よりもずっと強かった。
「あなたの選択と行動でしか、
未来のストーリーは動かない。
台本は……まだ白紙なんだ。」
最後にそう言い残し、
未来から来た男は光の粒となって消えた。
静寂だけが残った部屋で、
俺は目を覚ました。
未来は決まっていない。
だからこそ、書ける。
“これからの俺”という物語を。
