1.未来から来た男**

未来から来た男**

薄い光が差し込む部屋の片隅で、

俺は未来から来たという男と向き合っていた。

静かな空気の中、

自分でも信じられない質問が口をつく。

「なぁ……未来の俺はどうなってる?」

未来人は少しだけ目を伏せ、

やがてゆっくり首を振った。

「それは言えない。

言ってしまえば——未来が変わる。」

淡々とした口調なのに、

なぜか胸がざわついた。

「どういう意味だ?」

思わず問い返す。

未来人はしばらく言葉を選ぶように沈黙し、

静かに続けた。

「もし“あなたは成功している”と言えば、

あなたはこう思ってしまう。」

——“あぁ、俺は将来こうなるのか。

  なら、このままでもいい。”

「努力は止まり、

挑戦は弱まり、

未来はそこで濁っていく。」

言葉が胸の奥に落ちる。

未来を教えることが、

必ずしも救いではないという事実が見えてくる。

未来人は続けた。

「逆に“失敗している”と言えば、

あなたは絶望し、

本来の力を出せないまま終わってしまう。」

その声にはわずかに、

優しさのようなものがにじんでいた。

「だから未来は教えられない。」

未来人は微笑む。

「あなたの未来は、あなた自身の手で描くものだから。」

ゆっくりと立ち上がる未来人。

その背中はどこか、

今の俺よりもずっと強かった。

「あなたの選択と行動でしか、

未来のストーリーは動かない。

台本は……まだ白紙なんだ。」

最後にそう言い残し、

未来から来た男は光の粒となって消えた。

静寂だけが残った部屋で、

俺は目を覚ました。

未来は決まっていない。

だからこそ、書ける。

“これからの俺”という物語を。