──11万円の靴は高いのか、安いのか。**
俺の靴は、約11万円した。
初めて買ったときは正直、手が震えた。
「靴に11万? バカじゃないのか?」
そう思われても仕方ない価格だ。
けれど——
今、あの靴は5年目に入っている。
普通の靴なら、
俺の歩き方だと1年も持たない。
かかとはすり減り、
底は割れ、
色は抜け、
最後は“もう無理だ”と捨ててきた。
1年で終わる靴を、毎年買い替える。
それが当たり前だと思っていた。
高い靴を買った理由は単純だった。
「たまにはいいものを買ってみるか」
そんな軽い気持ちだった。
でも、履いた瞬間に気づいた。
大切にしたいものが、ひとつ増えた。
それだけのことなのに、
歩き方が変わった。
脱ぎ方が変わった。
置き方が変わった。
手入れする習慣までついた。
気づけば——
5年も一緒にいた。
あと3〜5年は余裕で履けるだろう。
ここでふと計算してみる。
11万円 ÷ 8年(予定)
= 年間 13,750円
普通の1万円の靴を
1年で壊して捨てていた頃より、
むしろ “安い” のかもしれない。
高いモノの価値って、
値段じゃない。
そのモノが、自分の行動を変えてくれるかどうか。
安いモノは“雑に扱ってもいいモノ”を増やす。
高いモノは“丁寧に扱う自分”を育ててくれる。
大げさかもしれないが、
11万円の靴は、俺にとって
“生き方を一歩だけ前へ進めた象徴”になった。
人生は、靴底と同じ。
雑に使えばすぐすり減るし、
手をかければ長く持つ。
そう考えると、
この11万円は——
けっして高くなかった。
